東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7383号 判決 1965年2月16日
原告 川本商会こと川本清
被告 丸善株式会社
主文
被告は原告に対し、金五一四、〇八〇円およびこれに対する昭和三七年七月二八日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
この判決は原告勝訴の部分について仮に執行することができる。
事実
当事者双方の申立、主張は次に述べるものを附加するほか別紙要約書のとおりである。
被告訴訟代理人は、抗弁として、
「一、被告は昭和三三年九月二二日校了をしたが同年八月一〇日から同年九月二七日迄原告が五回に亘り版の直し、変更、或は追加を申出たため不良品がでたものであつて、不良品の責任はすべて原告にあり被告にはない。
二、本件封筒は本来分割納入可能の製品であり、分割納入の特約も存するので、契約全部の解除は無効である。
三、被告は多大の犠牲(単価、版り直し等による費用等)を忍んで、契約の履行に努力したのであり、原告は力道山の封筒により利益をあげているのに、右一部不履行により契約全部を解除することは信義則違反である。」
と述べた。
当事者双方の立証<省略>
理由
要約書原告の主張一については引渡期限、校了の日の点を除き当事者間に争いはない。
同二の(一)の(イ)及び(ニ)については証人栗原の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一乃至八によつてこれを認めることができる。右認定を覆すに足りる証拠はない。
同二の(一)の(ロ)については本件全証拠によるもこれを認めることができない。
同三の見本の呈示及び残代金受領の点については、当事者間に争いがない。
そこで同四の(一)の解除の点について判断する。
納入期限、校了の日の点を除いて本件契約の成立、内容には当事者間に争いがない。そこで争いのある封筒の納入期限について判断するが、成立に争いのない甲第一号証によれば納入期限は昭和三三年九月五日から同三〇日迄となつてはいるが、証人虎井の証言によつて認められる原告の要求による版の直し追加等により納入がおくれたこと当事者間に争いのない本件封筒が写真入りであつて部数が大部であること、原告自ら同年一二月二八日二一〇九〇〇部を受領したと主張していることを考えると、納入期限は遅くも同年末頃迄であつたと考えることができる。原告はその後も度々納入の催告しているけれども右催告によつて直ちに納入期限がくり下がつたとは考えることができないし、要約書被告の認否の一の特約は本件全証拠によるもこれを認めることができない。従つて被告は本件封筒を昭和三三年末頃迄に原告に納入すべき義務があることになる。
原告は昭和三四年一月五日頃被告に右義務の履行を催告し、同月一七日本件契約を解除する旨の意思表示をし、それらが被告に到達したことは当事者間に争いがないので、結局同日迄に被告が右義務のうち五〇万部を完全に履行したか否かが争点になる訳である。(力道山の封筒五万部が完全に納入されたことは当事者間に争いがない。)被告はこの点について昭和三三年一一月一七日から同年一二月一〇日迄に合計二三万〇二〇〇部、同年一二月二三日一九万四〇〇〇部を現実に提供し昭和三四年二月中旬頃一〇万部を口頭で提供したと主張するので、以下これについて判断する。
成立に争いのない乙第四号証、第五号証第一〇号証の二乃至五、及び証人虎井の証言に検証の結果による封筒の保管状況を考えるに被告が昭和三三年一一月一七日から同年一二月一〇日迄に合計二三万〇二〇〇部の封筒を納入したことが認められる。証人栗原の証言によりその成立の真正が認められる甲第三号証、成立に争いのない甲第五号証、第六号証の各一によつても右認定を覆すに足りず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。そこで右封筒が約旨に従つた完全なものであるかどうかを考えると(この封筒が原告宅に保管中の封筒であることは争いがない。)検甲第一号証の一ないし五検証の結果によれば、右封筒総数のうち約一万九四〇〇枚の不良品が存在することが認められる(原告が不良品として選んだものの中から無差別に一箱ずつ抽出したのであるから、裁判所が不良品と認めた枚数に各その箱数をかけたものが不良品の大体の枚数とみてよいと考える、その内訳は別紙のとおりである。)右認定に反する証人三森、同代田の証言によりその成立の真正が認められる甲第八号証の一、第一〇号証、証人三森、同代田、同栗原、同虎井、同一ノ瀬、同山口和夫、同山口昌夫の各証言はいずれも信用できない。
(製品の良、不良の判定については、見本の呈示につき当事者間に争いのない本件では、見本を基準として、一枚一円六八銭という商品の原価を考え合せ、その商品価値によつて判定さるべきである。そして原告側に版の追加、変更とか、督促又は値切り等の事情があつたとしても、引渡期限を定め見本を呈示して契約を結んだ以上特に極端な場合を除いてその瑕疵につき被告に責任がないとはいえない。右の良、不良の判定はこの基準に従つてなしたものである。)そして右の不良品の枚数によれば、三%以下ならば原告はクレームをつけないという特約のあることについて当事者間に争いのない本件においても、被告納入の二三万〇二〇〇部について約八、四%の不良品が存することになる。そこで以下、一部解除をすべきであり、全部解除は無効であるかについて考える。(当事者間に争いのない部数の大部なこと、前掲納入を認定した各証拠による納入状況、成立に争いのない甲第二号証により認定しうるCOD約款の存在によれば、右の二三万〇二〇〇部、昭和三三年一二月二三日提供したと被告の主張する一九万四〇〇〇部、昭和三四年二月中の一〇万部は別々に分けて考えるのが妥当である。)右二三万〇二〇〇部についてみるに可分の定義如何にもよるが、このように極めて多い部数の商品につき、良、不良をより分けて不良品のみを解除する手数を債権者に負わせることは債務者として誠実にその義務を履行したものとはいえない。
従つて債務者としては本件では少くとも不良品を三%以内に押えるよう選別して納入すべき義務があつたのであり、その限りでは右封筒は可分のものとはいえない。よつて原告はこの二三万〇二〇〇部については全部を解除することができる。
なお、原告が直ちに右瑕疵を指摘したかにつき争いがあるが証人虎井の証言によれば、原告は昭和三三年一二月中旬にクレームをつけたことが認められ、これは直ちに右瑕疵を指摘したことになる。右認定に反する証拠はない。
被告が同月二三日頃一九万四〇〇〇部を原告に提供したことは証人一ノ瀬の証言によりこれを認めることができる。右認定に反する証拠はない。そして検証の結果によれば、右一九万四〇〇〇部中(この封筒が川村倉庫に保管中の封筒であることは証人虎井の証言及び弁論の全趣旨により認めることができる。)の不良品の割合は三%に満たないことが認められるので、右提供により被告は履行遅滞の責を負わず、この点に関する原告の解除は無効である。
被告は昭和三四年二月中旬にも一〇万部を提供したと主張するが、前認定の納入期限、催告、解除、その到達の事実によれば、仮に二月中旬に提供したとしても、原告の解除は有効であるといわなければならない。
被告は準備手続終結による要約書以外にも事実上の主張或は法律上の主張をしているが、民事訴訟法二五五条の公的な拘束力を考えると、たとえ相手方が同意しても、右主張に対する判断の要はないと考える。
以上認定により、被告は、一九万四〇〇〇部及び力道山五万部を除く三〇万六〇〇〇部について債務不履行があり、この部分に対する原告の解除は有効である。
従つて前渡金返還について判断するに、封筒の価格一枚一円六八銭として計九二万四〇〇〇円を原告が被告に対して支払つたことは当事者間に争いがないので、右三〇万六〇〇〇部に一円六八銭を乗じた額を被告は原告に支払うべき義務がある。
損害金について、本件のような製作物供給契約においては、履行利益迄被告は賠償する義務があると考えるが、本件全証拠によるも原告が要約書五の(2) 及び(3) に主張するような損害をこうむつたことは認めることができない。原告が、同六で主張する事実は当裁判所に明らかである。
結局被告は三〇万六〇〇〇部に相当する前渡金五一万四〇八〇円と、右債務が商行為に基くことは前認定の事実により明らかであるから、これに対する催告の翌日であること記録上明かな昭和三七年七月二八日から完済迄商法所定の年六分の割合による遅延損害金を原告に対して支払うべき義務がある。
よつて原告の被告に対する本訴請求は右認定の限度において理由があると認めてこれを認容し、その余を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石田哲一 滝田薫 前川鉄郎)
別紙 230,200部の封筒中の不良品内訳<省略>
要約書<省略>